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ゲーム業界におけるブランド・プロテクション – ゲームやキャラクターグッズ等の偽造品が販売された場合に権利者が採るべき対応とは?

1. はじめに

従来から人気ゲームについては、販売促進業務の一環としてオリジナルグッズが販売され、近年ではeスポーツの普及もあって、ゲームやキャラクターに関する多数の商品が販売されています。加えて、VTuber等のヒットキャラクターの人気の上昇もあり、2023年度のキャラクタービジネス全体の市場規模は前年度比101.4%の2兆6508億円と予測されています。[1]

このようなグッズ販売の活発化に伴い、事業者による販売(転売)も増えており、特にECサイトを通じた販売は比較的手軽であることから、事業者の参入が容易になっています。

このような場合、基本的には、ゲーム会社及びその関連会社が製造・販売した正規品・真正品が販売されることが多いものの、中にはゲームやキャラクターの名称・ロゴ・マークを無断で用いたコピー商品又は模倣品、偽造品がECサイト等で販売されているケースも散見されます。

事業者が、本物(正規品・真正品)のグッズ等(新品)[2]を転売する行為自体は、法律上禁止されていないものの、無断で偽物(ゲームやキャラクターの名称ロゴ・マークを用いたコピー商品や模倣品・偽造品)を販売することは、ブランドの顧客誘引力へのただ乗り(フリーライド)として、商標法・不正競争防止法違反になる場合があります。

本コラムでは、偽造品等を販売することの法的問題や偽造品等が販売された場合に権利者が採るべき民事上の法的措置、刑事罰について説明します。

2. 商標権侵害

(1) 商標とは

商標法の保護対象は、商標であり、商標法2条1項は商標を「人の知覚によって認識できるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」であって、(1)業として商品を生産等する者がその商品について使用するもの、又は(2)業として役務を提供等する者がその役務について使用するもの」と定義しています。

そして、商標が保護されるためには、当該商標について商標登録出願をする必要があり、登録査定がなされた後、商標権の設定登録がされて初めて商標権が発生します(商標法18条1項、同条2項)。

なお、商標の登録情報は、以下の特許情報プラットフォーム「J-Plat Pat」から確認することができます。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

また、商標権の存続期間は、設定登録日から10年をもって終了しますが、更新登録によって、更新することができます(商標法19条)。

(2) 商標権侵害

商標権は、指定商品・役務について、登録商標を使用することができる独占権です(商標法25条)。そして、他人が商標権者に無断で、指定商品・役務と同一の商品・役務について登録商標と同一または類似する商標を使用することは、商標権侵害となります。

正規品・真正品に表示されているゲームやキャラクターの名称・ロゴ・マークが商標登録されている場合において、指定商品・役務と同一の商品・役務について、登録商標である当該ロゴ・マークと同一または類似するロゴ・マーク等を用いた模倣品・偽造品を販売していた場合には、商標権侵害となります。

なお、正規品・真正品のロゴ・マークにつき商標の出願は行っていても、商標登録が完了するまでは、その出願商標について商標権が法律上発生しません(商標法18条1項)。

もっとも、正規品・真正品のロゴ・マークが商標へ登録されていない場合には、このような販売行為は、商標権侵害にはなりません。そこで、商標登録されていない場合は、下記3のとおり、不正競争該当性について検討することになります。

(3) 商標権が侵害された場合の法的措置

商標権者は、その商標権を侵害する者に対して、商標権侵害を理由とする、侵害の差止めをすることができます(商標法36条)。さらに、侵害により自己が受けた損害の賠償を請求することができます(民法709条。損害額の推定として商標法38条)。

なお、差止請求については、侵害者に故意・過失があるかどうかは問わないのに対して、損害賠償請求については、侵害者に故意・過失があることが必要とされています。もっとも、侵害者はその侵害行為について過失があったものと推定されます(商標法39条、特許法103条)。

ゲーム・キャラクターグッズ等の模倣品・偽造品が販売された場合、権利者としては、差止請求をすることができます。具体的には、①販売の中止や、②偽造品の在庫の廃棄請求をすることが考えられます。さらに、③模倣品・偽造品販売により被った損害賠償請求を行うことも可能です。

(4) 刑事罰

商標権侵害の行為に対しては、刑事罰が科せられる場合があります。

まず、他人の登録商標と同一の商標を、その登録商標の指定商品と同一の商品に無断で使用した場合、つまり専用権(商標法25条)を侵害した者は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金が科されます(商標法78条)。

次に、他人の登録商標と類似する商標を指定商品と同一の商品に無断使用した場合、または他人の登録商標と同一または類似する商標を指定商品と類似する商品に無断使用した場合、つまり禁止権(商標法37条1号)の侵害その他の間接侵害を行った者は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科せられます(商標法78条の2)。

3. 不正競争防止法違反

(1) 不正競争とは

不正競争防止法(不競法)2条1項では、事業者間の公正な競争を阻害する行為を「不正競争」として以下のとおり類型化し、このような行為によって営業上の利益を侵害された者に差止請求権、損害賠償請求権等を認め、また刑事罰を科しています。

  1. 周知な商品等表示主体の冒用行為(1号)
  2. 著名な商品等表示の冒用行為(2号)
  3. 商品形態の模倣行為(3号)
  4. 営業秘密に係る不正行為(4号~10号)
  5. 限定提供データに係る不正行為(11号~16号)
  6. 技術的制限手段に係る不正行為(17号・18号)
  7. ドメイン名に係る不正行為(19号)
  8. 品質等誤認行為(20号)
  9. 信用毀損行為(21号)
  10. 代理人等の商標無断使用行為(22号)

ゲーム・キャラクター等のグッズの模倣品・偽造品が販売された場合、関連する「不正競争」としては、上記の(1)周知表示混同惹起行為(不競法2条1項1号)、及び(2)著名表示冒用行為(不競法2条1項2号)が挙げられます。

以下、それぞれの不正競争類型について、説明します。

(2) 周知表示混同惹起行為(不競法2条1項1号)

他人の周知な商品等表示と同一または類似の商品等表示を使用して、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為は、不正競争行為に該当します(不競法2条1項1号)。

なお、「周知」とは、需要者の間に広く認識されていることが必要であり、全国的に知られている必要はなく、一地方であっても足りると解されています。

裁判例において「周知」であると認められた商品等表示として以下の例が挙げられます:

【周知な商品等表示の例】

VOGUE、SHIPS、Levi’sジーンズの弓形刺繍、Levi’sの赤いタブ、501、ファイアーエンブレム、堂島ロール、マイクロダイエット、花柳流、Shibuya Girls Collection

また、商品等表示とは「人の業務に係る使命、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と定義されています。

そこで、特定の商品のロゴ・マークとして需要者(商品等の取引の相手方)に周知されている場合において、当該ロゴ・マークと同一または類似のロゴ・マークを第三者が無断で使用して製造した偽造品を販売し、真正品と偽造品を需要者に誤認させるおそれを生じさせる行為は不正競争行為に該当し、違法となります。

(3) 著名表示冒用行為(不競法2条1項2号)

他人の著名な商品等表示と同一・類似の表示を、商品等表示として使用する行為は、不正競争行為(不競法2条1項2号)に該当します。 上記の周知表示混同惹起行為と比較すると、混同が要件とされていない一方、保護される商品等表示は、「周知」では足りず、「著名」であることを要する点で異なります。

「著名」は「周知」よりも高い知名度が必要であり、通常の経済活動において、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度に知られていることが必要であると解されています。

裁判例において「著名」であると認められた商品等表示として以下の例が挙げられます:

【著名な商品等表示の例】

シャネル、ルイ・ヴィトン、三菱、三菱商標、JAL、PETER RABBIT、MARIO KART、Budweiser、菊正宗、青山学院

そこで、他人の著名な商品等表示と同一または類似するロゴ・マークを権限なく使用した偽造品の販売は、先の周知な商品等表示を冒用する場合と異なり、真正品と偽造品の誤認・混同のおそれを生じさせるか否かを問わず、不正競争行為に該当し、違法となります。

(4) 不正競争行為が行われた場合に権利者が採るべき法的措置

不正競争行為によって営業上の利益を侵害される者は、侵害者に対して差止請求をすることができます(不競法3条)。

また、故意・過失による不正競争行為によって営業上の利益を侵害された者は、侵害者に対して損害賠償請求を請求することができます(不競法4条)。

ゲーム・キャラクター等のグッズの偽造品等が販売された場合、商標権侵害があった場合と同様に、①販売の中止や、②偽造品の在庫の廃棄請求をすることが考えられます。さらに、③偽造品販売により被った損害賠償請求を行うことができます。

(5) 刑事罰

周知表示混同惹起行為については、「不正の目的」をもって行う行為に対して刑事罰が科せられています(不競法21条2項1号)。

なお、この「不正の目的」とは、不正利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正目的」とされています(不競法19条1項2号)

著名表示冒用行為については、著名な商品等表示に係る信用・名声を利用して不正の利益を得る目的、又は当該信用・名声を害する目的をもって行う行為に対して刑事罰が科せられています(21条2項2号)。

4. 権利者が採るべき対応のまとめ

模倣品・偽造品販売の疑いがある場合、まずは対象商品の真贋確認を行う必要があります。そして、模倣品・侵害品であることが確認できた場合、対象商品の販売停止や在庫品の処分を求めて、販売業者に対して通告書面(必要に応じて内容証明郵便)を送付することになります。さらに、販売業者が上記通告に従わない場合には、法的手続き(仮処分の申立て、訴訟提起等)へ進むことになります。また、ECサイト上での販売については、プロバイダーに対する出品ページの削除依頼をすることも考えられます。

ゲームやキャラクター等が人気を得て有名になるにつれて、偽造品や模造品が製造・販売され、市場に多く出回ってしまう場合があります。このような場合、消費者・ファンは安心してグッズを購入することができず、結果として、ゲーム会社やVTuberの運営会社等の権利者の利益が減少することがあります。権利者としては、グッズの人気や著名度に応じ、ある程度早い段階から、偽造品や模造品の販売の状況について継続的にモニターを行い、侵害者に対して販売停止の要求や損害賠償請求を行う等して自社のブランドを適切に保護していくこと(=ブランド・プロテクション)が、長期的に見て自社の利益を守ることに繋がるといえます。

本コラムの内容に関してご質問・ご不明な点がある場合は、以下のリンク先を通して弊事務所までご連絡ください。

https://esports.mps-legal.com/contact


[1] 矢野経済研究所・2023年8月1日付けプレスリリース

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3292

[2] なお、中古品の販売の場合は、古物営業法上問題となる可能性があります。

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